大分建設新聞

四方山

苦渋

2022年09月22日
 大分市の高崎山で暮らすニホンザルもホッとしていることだろう。同市は南米ウルグアイとの友好の印として、ニホンザルを寄贈する計画を進めていたが、当のウルグアイから辞退の連絡があったという。3年越しで準備を進めてきただけに、市も断腸の思いだろう▼「断腸」とは、中国の故事が由来だ。ある国の兵士が子猿を捕まえて船に乗せた。母猿は岸づたいに追いかけること百里。ようやく船に飛び移るとそのまま息絶えてしまった。腹を割いてみると、悲しみのせいで母猿のはらわたはズタズタになっていたことから、耐えがたい苦痛を「断腸」と呼ぶようになったという▼似た言葉に「苦渋」がある。渋みを味わうような苦しみから転じて、悩み苦しむ意味として使われる。だが、言葉は使われるほどに軽くなる。このところ新聞の経済面を開けば、値上げのニュースが目白押しだが、しばしば登場するのが経営者のこのセリフ。「苦渋の経営判断です」。なるほどそうなのだろうが、決まり文句のように使われると、便乗では…などと勘ぐりたくもなる▼苦渋という言葉のインフレに追い打ちをかけるのが、安倍晋三元首相の国葬に参加を表明した、労働組合の中央組織「連合」の芳野友子会長ではあるまいか。「苦渋の判断だが、連合会長として弔意を示すため出席せざるを得ない」。弔意を示すのは当然だろうが、政権と対峙する労働組合という立ち位置としてはどうなのかとも思う▼けれども芳野氏が自民党に接近していると報じられるなか、この「苦渋の判断」は組合員への苦しい弁明にも聞こえる。だが連合だけをあげつらうのは不公平である。安倍政権を厳しく批判してきた旧民主党系国会議員の対応も二分している。国葬に向けてそこかしこで苦渋の言葉が飛び交うのではあるまいか。(熊)
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