大分建設新聞

四方山

吏道と忖度

2022年09月13日
 いまの時代、「吏道」という言葉は死語だろう。国民の公僕である官僚として守るべき道義のことである。先ごろ87歳で他界した古川貞二郎元官房長官。新聞各紙は「吏道の探求者」などと評した。村山政権から小泉政権までの五つの内閣で官僚トップの官房副長官を8年余務め、阪神大震災の復興、省庁再編など激動の時代を裏方で仕切った▼佐賀県の出身。長崎県庁に就職するが、社会福祉を担いたいと思い定め、厚生省(現厚生労働省)に入った。「官僚としてののりを超えない」をモットーに「ポストは国民からの預かり物」が持論だった。時代はくだって令和の時代、官僚の「預かり物」は変わったようだ▼経済産業相に就任した西村康稔衆議院議員をめぐり、経産省が大臣出張時の対応マニュアルを作成していた。いわく「お土産の購入量が非常に多いため、荷物持ち人員が必要」「保冷剤の購入および移動車内の冷房は必須」。駅で夕食を購入する際には「弁当購入部隊とサラダ購入部隊の二手に分かれて対応」することが明記されている▼「大臣トリセツ」である。同省にとっての喫緊の課題は、国民生活を直撃している物価高対策のはずである。だが、それらの文書から浮かび上がるのは西村氏への過剰なほどの「忖度」であろう。同じほどの思いやりを国民に寄せてくれたらいいのにと、嘆息をつきたくもなる▼リーダーの教科書と評される中国の古典『韓非子』にこんな一説がある。「君、其の意を見す無かれ。君、其の意を見さば、臣、将に自ら表異せん」。大意はこうだ。「君主は臣下に自分の考えを悟られてはならない。なぜなら臣下はそれに合わせてこびへつらい、組織は乱れる」。その言が正しいとすれば、問われるべきは「トリセツ」を生む土壌をつくったトップの責任なのだろう。(熊)
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