大分建設新聞

四方山

稲盛和夫氏

2022年09月06日
 人間は競い合うのが好きな性分らしい。はるか太古、神の住まう天上に挑もうとして建てられた巨大な建造物として今に伝わるのがバベルの塔。神の怒りに触れて崩れ去った、と旧約聖書は記す。バベルの塔には及ばないが、警視庁の本部庁舎も完成した1980年当初は、他の全国警察本部を睥睨するような威容を誇った▼高さ83・5㍍は他を圧倒した。王座の座は短かった。お隣の神奈川県警が11年後に建てた本部庁舎は高さ91・8㍍と、警視庁を超えた。その後に新設された大阪府警本部庁舎が54㍍にとどまったことを考えれば桁外れの規模だった。口さがない新聞記者たちは「負けたくないものだから神奈川県警は無理したね」とささやき合ったものだ▼京都市伏見区の18階建て高さ95㍍の高層ビル。見上げては頑張ろう心に刻み、ついには同市内に22階建て高さ100㍍の本社ビルを建てたのが日本電産の創業者、永守重信氏(78)だ。一代で年商2兆円の企業に育てた。経営のモットーは自らが「三大精神」と呼ぶ「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」▼今では死語だが、昭和のモーレツ精神である。後継と頼み、外部から招いた社長の首をわずか1年ほどで切った。社員を子分と言い切る永守氏だが、前社長について「子分どころか社員にもなっていなかった」と手厳しい。強い個性もまたベンチャー精神なのだろう▼その永守氏が見上げて発奮のきっかけにしていたビルの主こそ、90歳の生涯を閉じた京セラ創業者の稲盛和夫氏。教えの一つは「強烈な願望を心に抱く」である。心に念じれば困難を乗り越える方法は見つかると。要は「欲望の効用」である。永守氏も同じなのだろう。だが、ここから先がある。稲盛氏は説く。「判断基準は人間として善か悪か」。誠に惜しまれる経営者だった。(熊)
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