大分建設新聞

四方山

命がつながった日

2022年08月22日
 「時間の問題です」と医者に言われたことがある。49年前の8月23日、13歳、中学2年生の夏休みのことだった。数日前から体調を崩して食欲がなかった。育ての親だった祖母から毎日のように病院に行こうと言われたが「明日行く」の繰り返しで先延ばしをしていた▼23日の夕方、テレビで巨人の星を見ていた時のことだった。突然、胃の中を焼けた火箸で何度も突かれるような激痛が走った。転げまわる私を見て、祖母は近所に走り、クルマで病院まで連れて行ってもらうようにお願いした。近所のおじさんも祖母も、当時多かった盲腸(虫垂)炎だと思っていたようだ▼住んでいた杵築市内の病院で「胃が破れて腹膜炎を起こしている。急がないと命が危ない。時間の問題です」と言われて「先生、助けてください」と叫んだことを今でも鮮明に覚えている。救急車は呼ばずに、そのまま近所のおじさんが国立別府病院まで連れて行ってくれた。痛み止めが効いて痛みはおさまっていったが、身体は硬直し動かなくなっていった▼その日は病院の納涼祭で手薄だったが、官舎にいた外科医長の先生が執刀することになったのは幸運だった。福岡県豊前市に住んでいた母が駆けつけ、祖母と一緒に私の顔を心配そうに覗き込んだ。4時間弱にわたる手術は無事終わった。当時、13歳で胃を切除するのは非常に珍しく、院長の特別回診も何度か受けた▼外科病棟で唯一の子どもだったので、看護師や患者さんに可愛がってもらい、思い出深き入院生活を過ごせたが、命をつないでくれた先生からは「あなたも将来医者になって命を救いなさい」と人生最大の夏休みの宿題をもらった。宿題は未達成だが、私にいじめられていた同級生から「入院した後は少し優しくなった」と言われた。命の大切さを知った夏だった。(リュウ)
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