大分建設新聞

四方山

死者への畏敬

2022年07月19日
 日出町にイスラム教徒の土葬墓地を建設する計画が進められている。水源地に近く、宗教上の慣習の違いもあり、地元だけでなく隣接の杵築市からも反対論があるという。それでも町や町議会は、ムスリム団体との間を取り持ちながら話し合いを続け、解決への道筋を見つけようと努めている。背景にあるのは、文化的相違を乗り越えての死者への畏敬であろう▼お隣の中国ならば、こうはいかないだろうとも思う。紀元前6世紀、伍子胥という武人がいた。楚という国の王様に父と兄を殺され他国に逃れた。苦節十数年、楚を攻め滅ぼしたが、当の王様は死んでいた。怒りが収まらない伍子胥は、王様の墓を暴いて遺体を引きずり出し、300回鞭で打った。「死者に鞭打つ」の語源である▼決して昔話でない。敵を最大限に侮辱する行為が、その墓を徹底して荒らすことだとされている。第2次世界大戦後、日本に協力的だった中国の政治家の墓は破壊された挙げ句、裸像が置かれ、中国政府は国民につばを吐きかけるよう求めた。今でも「墓暴き」という言葉が当たり前に使われているという▼日本はそうではない。「仏教では、どんな死に方をしても死んだ人はみな仏です」とは、瀬戸内寂聴さんの言葉だが、それが大方の日本人の死生観の根底にあるのではないか。であればこそ「死者に鞭打つ」が、日本では「死者に鞭打つな」に変じた▼悲劇的な死を遂げた安倍晋三元首相。亡くなって1週間もしない間に、国葬が決まった。凶弾に倒れた死者にものを申すようで気が引けるが、評価が定まらないなか、性急過ぎた感もする。だが、政府対応よりも、変わり身の早さに驚かされたのが一般メディアである。生前は「モリカケ問題」など厳しく批判しながら、一転して礼賛の報道に。無節操振りが怖い。(熊)
取材依頼はこちら
環境測定センター
arrow_drop_up
TOP