大分建設新聞

四方山

けじめ

2022年07月07日
 例年なら厚い雨雲に覆われる時季というのに、酷暑の日々である。そして、別れの季節でもないのに、大物アーティストの引退の知らせが続いた。シンガー・ソングライターとして音楽界を先導した吉田拓郎さん(76)が年内で音楽活動を終える▼デビューは1970年。反体制色の強かったフォーク・ソングの世界で「結婚しようよ」と身近な幸福を歌い、一躍時代の寵児に。今もなお、あふれんばかりの才能を発揮していただけに「有終の美」とは無縁だと思っていた。だが、初期の代表作「イメージの詩」で「古い水夫は知っているのさ/新しい海のこわさを」と、歌っただけに自らの引き際を考えていたのだろう▼「君といつまでも」の大ヒットで知られる加山雄三さん(85)も、年内いっぱいでコンサート活動から退く。歌手デビューから61年。俳優としても活躍し、元祖マルチタレントだった。屈託のない笑顔。育ちの良さが全身からにじみ出ていた。「幸せだなァ/僕は君といる時が一番幸せなんだ」と「幸せ」という言葉が似合った▼実際は違った。経営に関わったホテルが倒産し、巨額の負債を抱えた。「人生なんて、苦しいことが9割で幸せなことは1%。それでも、経験にはみんな意味がある。良いことも悪いことも全部大切にしてきた。だからこそ今があるんだ」。朝日新聞6月20日付紙面のコメントは、酸いも甘いも知る「人生の達人」の言葉に響く▼2人の大物歌手の引退宣言。世代は違うが、ともに「けじめ」という言葉を使う。歌えなくなる前に、ファンにきちんとあいさつしておきたいということなのだろう。翻って……と情けなくなるのが「パパ活」という言葉を一般化させた衆院議員のことである。引退どころか、ボーナスを手にこのまま逃げ切る寸法らしい。美しくない。(熊)
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