大分建設新聞

四方山

共生

2022年05月12日
 手狭になると、緊急避難的に増築するのは人間だけでない。よく知られているように、ヤドカリも成長するにつれて、大きい貝殻を見つけて引っ越す。ヤドカリの習性はおもしろく、中にはイソギンチャクをわざわざ背負う種類もいる。イソギンチャクの持つ毒で外敵から身を守るという寸法らしい。動かされるイソギンチャクにとっては迷惑な話だ▼ところが、イソギンチャクの中には自ら進んでヤドカリの貝殻に乗っかる習性のある種類がいるらしい。東京大学大気海洋研究所などが三重県の熊野灘沖で採取した新種がそれ。深海底に生息する、そのイソギンチャクは、ヤドカリの貝殻を大きくする分泌物を発生させるという▼おかげで、ヤドカリは引っ越す必要はなく、イソギンチャクの側も捕食のうえで利点があると見られる。どちらかが「寄生」しているのではなく、ウィンウィンの「共生」関係にあるということのようだ▼その意味では、最大与党の自民党と、労働組合の最大中央組織「連合」との急接近もその手合いなのだろう。連合初の女性トップが自民党の会合に出席するなど、両者とも蜜月とは言わないまでも、「いい関係」であることをアピールしている。自民党にとっては、まとまった組織の票は魅力的だろうし、連合にとっては自分たちの主張を政策に反映する機会がぐんと広がる。相互にいいことずくめの「共生」関係にも見える▼けれども腑に落ちない。財界に基盤を置く自民党と、長年対立関係にあった労働者の団体がそもそも盟友関係を築けるのだろうか。前述の新種のイソギンチャクの話だが、貝殻そのものを大きくしているようにみえて、増築部分はたとえて言えば、プレハブ構造の安普請らしい。つまりは壊れやすい。相互においしい「共生」はそうそうあるものではない。(熊)
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