大分建設新聞

四方山

リーダー

2022年05月10日
 広く知られておかしくないのに、知名度にもう一つ欠ける歴史上の人物がいる。「三菱の大番頭」と称された荘田平五郎(1847~1922)もその一人である。生まれ故郷の臼杵市の市歴史資料館で、没後100年を期して、業績などをたどる企画展(7月18日まで)が開催されている▼中津市ゆかりの福沢諭吉の薫陶を受け、実業界に身を投じた。諭吉の提唱で「複式簿記」を経営に導入した最初の一人ともされている。三菱汽船(当時)の就業規則に「会社の利益は全く社長の一身に帰し会社の損失また社長の一人に帰すべし」と記したのも平五郎だった。ワンマンな経営者像を想起してしまうが、経営者の責任を明記したのは、当時としては画期的だった▼80歳で急逝した、サッカー元日本代表監督のイビチャ・オシムさんのことを思う。旧ユーゴスラビア出身。強い印象を残したというのに、日本代表の監督を務めたのは2006年からわずか1年少々だったことに改めて驚かされる。それというのは、語られた言葉がいまもってなお色あせないせいだろう▼「契約は結婚のようなもの。はじめはうまくいくが、その後どうなるか分からない」、「実力以上のことを期待するから失望する」。日本代表監督の就任前後に語った言葉だが、サッカーという枠を超えて心に響く。選手への要求は高かったが、自身の責任もわきまえていた。「チャレンジしろ。失敗したら責任は監督である自分がとる」と口にして、選手らを鼓舞した▼北海道知床半島沖で観光船が沈没した事故。懸命な捜索活動が続く。経営者の社員に対する口癖は「お前ら言うことを聞け」だったと報じられる。断定調の響きは強いリーダーシップを思わせるが、無責任きわまりのない事故後の対応は、オシム、平五郎の志のかけらもない。(熊)
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