大分建設新聞

インタビュー

岩野勇さん(匠寺社瓦工業)

2010年06月08日
 県道664号円座中津線から南に約1㌔にある大重見(宇佐市院内町)の集落。遠目にも鮮やかな大屋根の建物が目に飛び込んできた。一見、寺院と間違えてしまいそうなその建物は、倉敷匠会が施工している木造住宅だった。  屋根を葺くのは匠寺社瓦工業。親方の岩野勇さん(44)に、屋根への思い入れをうかがった。「職人というのは、ただ仕事をこなせばいいというものではないのです。屋根に関しては(雨が)漏らないという性能や耐久性はもちろん、その上の機能美を追求したい。『大手にはないものを』という気概ですね」とおだやかに語る。  もっとも、人の感じる〝美〟にはそれぞれの好みがある。施主もほれぼれとする機能美、それが職人の仕事なのだろう。「施主さんとの話でイメージが半分くらい固まりますが、あとの半分は職人の(イメージの)押し付けです」と笑う。その職人から提案される〝押し付け〟こそ、施主が職人を選ぶ決め手となる。  岩野さんがこの仕事を始めたのは高校生のとき。「肉体労働で割がよかった」と、近所の瓦屋さんでアルバイトを始めた。そのまま、この業界で仕事をしていたが、30歳前後で転機が訪れた。「今の私の親方との出会いです。社寺系の親方なんですが、考え方がすばらしくて。社寺系は地味で、こなせばこなすほどキリがないんですが、それだけに瓦が好きな人が多いんです」という。  確かに、岩野さんも屋根が好きでしょうがないようだ。専門的な話に及ぶと、語り口に熱を帯びてくる。専門知識のない相手でも、親切に丁寧に、屋根に込められた先人の知恵を教えてくれる。聞けば聞くほど奥が深い。  それほどお好きな建築物で「これは」という建物があるのでは。「有名な建築物はもちろんですが、片田舎を歩いていて、変哲もない古民家や蔵で『いい仕事だな』と感心するようなものがあります」という。昔は道具も揃っておらず、農作業の合間の大工仕事で時間が限られている。そんな中でしっかりした仕事を残している、昔の名も知れない職人のスゴ味を感じるという。「物や情報が少ない分、感性が研ぎ澄まされていたのだろう」と分析する。  建物だけでなく、石垣や木造船にも興味がある。「いろいろなものから刺激を受ける」という謙虚さと貪欲さが、確かな技術を支えているのだろう。




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