足立信治さん(足立建築事務所代表)
2008年05月20日
今春、黄綬褒章を受章。大工をしていた親、親戚の背中を見て、子供の頃から大工さんが好きになりこの道に入った。「あの頃は、身近に建築があった。今でも木造住宅の需要はあるが、2×4やプレカットがほとんど。木を見て、墨付けして家を建てる大工が少なくなった」と嘆く。それでも「本気で大工を目指す人材は確保しやすくなった」と語る。訓練校を出た若い大工を採用し、育てている。建築士会の子供大工道場の講師を務め、子供たちに大工仕事の魅力を伝える。
守るだけではない。伝統的な職人技や考えを大切にしながら、新しい工法に取り組んでいる。それがスケルトンログだ。木造でありながら壁が無くても構造が成立する特殊な工法だ。丸太材の皮をはぎ自然乾燥し、中国の五重の塔のような軸組にする、公共建築の木造化による地域材活用技術だ。東京芸術大学の黒川哲郎教授が開発した斬新な技術だが、施工には匠の技が必要とのことで、足立さんに白羽の矢が立った。県内では豊後大野市の道の駅あさじ、日田高校体育館など黒川氏設計の大型公共建築を施工してきた。
さらに足立さんはこの工法を応用し、独自に展開。日田杉を長さ4㍍の丸太に加工し、一辺4㍍の立方体を1ユニットとして組み合わせる「スケルトンログハウジングOOITA」工法を開発し、住宅の設計・建築に活用している。間取りが自由で大きな開口部を設けることができ、住宅以外にも商店やショールームにも利用可能。「丸太は製材よりも強度があり、木造本来の耐久性を発揮できる。地元の林業家の利益にもつながる。寿命あたりのコストで鉄骨造りやプレハブ造りに対抗できるものだ」と自信を持つ。この工法を確立したことが評価され、18年度の「現代の名工」に認定された。
「日々前進。これでいいと思わずに、もう少し良く、さらに上を」がモットー。常に一生懸命を心掛けている。業界は厳しいが、「初心に戻ったらどうか。この業界に入った頃は〝もう少しこうすればいいのでは〟という思いがあったはずだ。世間の動向や人の話をうのみにせず、自分の初心に戻れば、生きる道が見つかるはずだ」と後輩らにアドバイス。
奥さん、娘夫婦との家族経営。奥さんは足立さんを「仕事一筋の人」と評する。大学で建築を学んだ息子さんも、職業訓練校で大工の技能を習得し、姉弟で家業を継ぐ予定だ。伝統の技は文字通り子孫へと受け継がれる。53歳。